質問「理事長の役員退職金の為の生命保険について」

ご相談者様に勧められている生命保険は、下記のような説明を保険会社から受けているものです。
1.保険料が全額、医療法人の損金になるため節税が出来る。
2.解約返戻金が理事長先生の役員退職金に充てられる。
3.10年後の実質解約返戻率が約135%なので実質資産が増える。
ご相談内容は「保険会社の人は絶対お勧めだと言っているが本当か教えて欲しい」というものでした。

以下、ご相談内容には書いてありませんでしたが、理事長先生がオーナーである同族経営の医療法人であることを前提として説明致します。
まず最初の判断基準はご相談者様(理事長先生)の相続財産がいくら位あるかです。
医療法人の出資持分、個人で掛けてる生命保険、その他の財産を評価してみて下さい。その金額が相当な財産であり、かなり多額の相続税が課税される見込みであれば今回の生命保険には入るべきではありません。
理由は簡単です。生前に退職金をもらうと相続財産が増えるからです。生前に退職金をもらうという事は、その時点において所得税がかかります。そして税引き後の現金が手元に残ります。この現金を何かに使うあてがあるのであれば生命保険に加入してもいいでしょうが、そうでなければ現金は相続時の課税資産に含まれます。そうなると相続時にも相続税が課される事になるので、私に言わせれば2重に税金を納めることになります。

次に現時点の財産を計算しても、それほど多額の相続税が課税されない見込みの場合ですが、基本的には加入しても問題ありません。
ただし以下の事を十分に考慮して下さい。
1.今回勧められている保険は逓増定期保険だと思われますが、逓増定期保険はある時期(今回の場合10年後)をピークに解約返戻率が下がってきます。ですから当初計画した時期に退職をしないとかなりの損になります。後継者が育っていない、10年後に医師不足でやめるわけにはいかない等の理由で退職を延期する事がないよう十分に配慮してから理事長先生の退職時期を決めて下さい。
2.実質解約返戻率に惑わされずに単純解約返戻率で得か損かを決めて下さい。保険会社のいう実質解約返戻率とは法人税の節税効果を含めて計算しています。ですから保険料を払い続けているうちは計算通りかもしれませんが、解約した時の事は違います。
保険を掛けていない場合、毎年の損金になる金額はありませんから節税率は0%です。ところが退職金を出した時は全額が損金になるわけですから節税率は約40%(法人税等の税率分)になります。
ところが、保険を掛けた場合、毎年は保険料が損金になりますから節税率は約40%ありますが、退職金を出すときは解約返戻金が雑収入となりますので、節税率は0%です。
つまり税金を先に納めるか、後に納めるのかの違いだけと考えて下さい。この事を考慮すると実質解約返戻率が135%という事はあり得ません。
恐らく逓増定期保険の場合、10年後の単純解約返戻率は80%程度ではないでしょうか?つまり1億円保険料を支払っても戻ってくるのは8,000万円程度という事です。得は絶対にしません。
ただし、生命保険ですから契約中に万が一の事があった時の保障はつきますので、損をするわけではないかもしれません。
また、よく保険会社の人は税金が安くなるので得をするとか、資金繰りが楽になるといいますが、保険料を支払っているのですから資金繰りが楽になるわけありません。
最後にもし保険に入るにしても何社かで同様の条件による見積もりを取ることを絶対にお勧めします。
私の経験上、かなり規模の大きい医療法人でも、生命保険は近所のセールスレディ(いわゆる保険のおばちゃん)とのお付き合いから加入しているケースが多いです。セールスレディは1社の保険商品しか勧めてきませんから、本当に有利な商品かは他社と比較しなければわかりません。また、セールスレディは保険に加入させてから数年たつと保険会社から報酬をもらえなくなりますので、必要でないのに保険の掛け替えを勧めてきたりもします。セールスレディが親戚等で生活の面倒を見るというのであれば別に構いませんが、よほど医療法人が黒字経営でも無い限り、同じ商品であれば条件の良い保険会社を選ぶべきです。
10年間という長い目でみた場合、保険会社によっては何百万円という単位で差がついてきます。

結論を申しますと、保険の加入も相続時の事まで考えた長期的戦略で決める必要があります。
決して一時の節税の為だけで入るべきでは無いと思います。

(公開日 平成16年12月以前)