質問「社員退社時の医療法人の出資持分の時価の算定方法を教えて欲しい」

ご質問は出資持分のある医療法人社団を経営している先生から頂きました。
ご質問の内容は社員退社時に出資持分の払戻請求があった場合の、出資持分の時価の算定方法は財産評価基本通達で計算した金額でよいか?という内容でした。

ご質問の社員退社時の出資持分の時価の算定はとても難しい問題です。
理由は医療法人は制度がきちんと整備されておらず、矛盾だらけの法人だからです。恐らくこの件についてきちんと回答できる税理士は少ないと思います。

まず、払戻の問題ですが、定款に「社員資格を喪失した者は、その払込済出資額に応じて払戻しを請求することができる。」と書かれているだけで、医療法人関連法令には一切払戻の規定が設けられていません。
払戻請求も、株式会社では株式買取請求は特定の場合に該当しない限り出来ませんが、医療法人は社員を退社するだけで請求できます。
払戻額は、一般的には財産評価基本通達によって計算した金額を基に計算しているようです。
理由は、相続税法に「みなし贈与」の規定があるからです。
「みなし贈与」についての説明は省きますが、相続税法上は財産評価基本通達で計算した金額以上で払戻をしないと、他の出資者に対して贈与税が課税されてしまいます。
ですから、医療法人の時価に関する規定は一切ありませんが、「みなし贈与」を回避する為に財産評価基本通達で計算した金額を時価として取り扱うのが一般的のようです。
なお、平成7年6月の東京高等裁判所の判例では「土地及び建物については当時の時価によることとし、その余の資産及び負債の額については右同日現在の貸借対照表上のされを採用する」となっており、財産評価基本通達で計算した金額とは異なります。
つまり、医療法人側と退社する社員との間で金銭的なトラブルがなければ「みなし贈与」を回避する為に財産評価基本通達で計算した金額でよいが、金銭的なトラブルがある場合の払戻額の算定は難しいということです。

さらに難しいのは評価のタイミングです。
「みなし贈与」の規定には「贈与による財産の取得の時期は、財産の提供があった時、債務の免除があった時又は財産の譲渡があった時によるものとする。」と書かれていますので、本来は退社時の時価で計算すれば良いですが、医療法人の社員の退社は、社員総会の承認を必要としていないので、社員が辞めると言った日が退社日になってしまいます。
仮に社員が1月21日で辞めたいと言ってきたら1月21日という中途半端な日で評価することになり、評価額を計算することは非常に困難になります。
したがって、退社日は社員総会で期末に限定すると予め決議しておくか、退社する社員と相談して期末にしてもらった方が評価額を計算しやすくなります。

また、退社に伴う払戻金をいつ払うのかも問題になってきます。
所得税は権利確定主義を採用しており、収入すべきことが確定した日の所得とすることを前提としていますので、権利確定主義で考えれば退社日で所得申告をすることになります。
ところが、平成18年6月の国税不服審判所の裁決では医療法人の退社払戻金は退社日でなく支払いを受けた日で所得申告するとなっています。
このように国税当局の扱いはケースにより異なるので、無用なトラブルを避けるためにも出来るだけ払戻金は年をまたがないようにして下さい。

(公開日 平成22年1月21日)