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経営ヒント「介護保険施設に対する監査の立会であった実話紹介」

平成22年7月に某県の介護保険施設の監査に立ち会った時の実話をご紹介します。

私は税理士と行政書士の資格を持っていますが、社会保険労務士の資格は持っていません。
すると某県の職員が、本来は行政書士は介護保険施設の指定申請や届出を代行することは出来ないと言ってきました。
わざわざそのように言ってきたのは、その職員が社会保険労務士の資格を持っていたので、介護保険施設の申請や届出は社会保険労務士の独占業務だと言いたかったようです。
現にお願いをしてもいないのに社会保険労務士の資格証を見せてきました。

社会保険労務士の独占業務は下記の業務です。
『社会保険労務士法』
第2条 社会保険労務士は、次の各号に掲げる事務を行うことを業とする。
1.別表第1に掲げる労働及び社会保険に関する法令(以下「労働社会保険諸法令」という。)に基づいて申請書等(行政機関等に提出する申請書、届出書、報告書、審査請求書、異議申立書、再審査請求書その他の書類を作成すること。
1の2.申請書等について、その提出に関する手続を代わつてすること。

別表第1の31号に介護保険法は掲げられています。
この事から、某県の職員は介護保険法に関する申請書等の作成及び手続代行は全て社会保険労務士の独占業務だと誤認しているようです。

ところが、社会保険労務士法第2条には「別表第1に掲げる労働及び社会保険に関する法令」と書かれています。
つまり、介護保険法のうち労働及び社会保険に関する部分の申請書等の作成及び手続代行だけが社会保険労務士の独占業務であり、介護保険施設の指定申請や施設の運営に関する届出等は社会保険労務士の独占業務ではありません。

むしろ社会保険労務士が介護保険施設の指定申請書や施設の運営に関する届出書等の作成を業務として行った場合は、行政書士法違反となり1年以下の懲役又は100万円以下の罰金の対象になります。

行政書士の独占業務は下記の業務です。
『行政書士法』
第1条の2 行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類その他権利義務又は事実証明に関する書類を作成することを業とする。

ここで私が言いたいのは社会保険労務士が介護保険施設の指定申請や届出等の代行を業務として行ってはいけないという事ではなく、監査という公的な行政手続の場であっても、役人は平気で間違ったことを言うという事実です。
しかも、その職員は監査グループのリーダーでした。

今回は別に顧問先の不利益にはならないことだったので、あえて問題にはしませんでしたが、施設側の利益を損なう間違った指導をするケースは往々にして見られます。

監査を受ける施設の皆様や、施設の顧問している先生方は、監査官の言っている事が全て正しいと思い込まず、くれぐれも間違った指導には従わないよう気をつけて下さい。

(公開日 平成22年9月27日)

最近この記事と関連する質問が社会保険労務士協会に多数寄せられているらしいので、この記事について補足説明をします。
介護保険施設の申請等が社会保険労務士の独占業務でない理由は上記で説明済みですが、ポイントは社会保険に関する法令の範囲です。
平成24年度厚生労働白書(以下、厚生労働白書と書きます。)に社会保険について下記のように記載されています。

社会保険

社会保険の種類に介護保険があるので独占業務だと勘違いしている方が多いようですが、社会保険としての介護保険は介護保険利用者に対する制度です。
厚生労働白書にも「介護保険は、介護が必要になった場合に、かかった費用の1 割の利用者負担で、介護サービス事業者の提供する介護サービスを受けることができるものである」と書かれており、社会保険としての主体は介護サービス事業者の提供する介護サービスを受けることができる利用者であることがわかります。

社会保険は社会保障制度の中の1つの制度です。

社会保障制度

上図は厚生労働白書から抜粋したものです。
社会保障制度は社会保険より範囲が広いことがご理解頂けると思います。
そして介護保険施設は利用者が社会保険の1つである介護保険を利用する為に必要な施設として福祉サービスという社会保障制度として整備されているものです。
病院も同様です。病院を利用する患者は医療保険で受診していますが、病院そのものは保健医療サービスという社会保障制度として整備されています。
ですから介護保険施設には介護保険が適用されない住宅型有料老人ホームがありますし、お泊まりデイサービスといった介護保険外サービスもあります。
そもそも社会保険としての介護保険は全額利用者に給付されています。自己負担分を控除した残額が介護保険施設に支払われているので、介護保険施設が介護保険を利用していると勘違いしているだけです。
介護保険を利用したのはあくまで利用者であり、介護保険施設はサービスの対価として代金をもらっているだけです。
ここは重要なので繰り返し書きますが、介護保険施設はサービスの対価を利用者に代わって介護保険から支払いを受けているだけで、社会保険である介護保険は利用していません。
介護保険施設は法定代理受領をしているだけです。間違えないで下さい。

おそらく介護保険施設の申請等が社会保険労務士の独占業務と主張している方々は社会保障と社会保険の意味を混同していると思われます。
例えばウィキペディアに社会保険労務士の業務範囲について詳しく書かれています。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E4%BF%9D%E9%99%BA%E5%8A%B4%E5%8B%99%E5%A3%AB
しかし、ウィキペディアの記事にの中にも介護保険施設の申請等が社会保険労務士の業務とは書かれていませんし、全国社会保険労務士会連合会のホームページにも介護保険施設の申請等は記載されていません。

このように私は根拠を示して論理的に詳しく説明していますが、それでも介護保険施設の申請等が社会保険労務士の独占業務と主張される方は、社会保険労務士協会のホームページに介護保険施設の申請等が独占業務だと載せるよう社会保険労務士協会に依頼して下さい。
もし社会保険労務士協会が独占業務と認めたのであれば、私は速やかに本記事を取り下げます。

最後に本記事に行政書士法違反になると書いているのは介護保険施設の指定申請書や施設の運営に関する届出書等の作成を業務として行った場合のみです。
施設が作成した届出書の提出を行っても行政書士法違反にはなりません。
ですから私は社会保険労務士が申請や届出をしてはダメとは一切書いていません。文章をしっかり読んで頂き、間違った解釈をしないよう気をつけて下さい。

(追記 平成27年10月31日)

平成28年1月からマイナンバー制度が支払調書、源泉徴収票及び給与支払報告書、社会保険関係の手続について実施されます。
当然、社会保険の1つである介護保険についてもマイナンバーは適用されますが、介護保険に適用されるマイナンバーは要介護認定の申請等など利用者本人に関するものだけです。
下記は全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議の資料の一部で、介護保険分野へのマイナンバーの導入に関する資料です。
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12301000-Roukenkyoku-Soumuka/0000076376.pdf

当たり前ですが、社会保険関係の手続きに介護保険施設の申請等は含まれていません。
介護保険施設の申請等が社会保険関係の手続きでない以上、社会保険労務士の独占業務でないのは明らかです。

そもそも士業の独占業務というのは法令で明確に定められたものだけです。
一部の社会保険労務士が都合良く法令を拡大解釈したものが独占業務になるのであれば、税理士や弁護士などの他の士業も次から次へと独占業務の幅を広げることができます。
何度も書きますが、介護保険施設の申請等が社会保険労務士の独占業務でない証拠はいくらでもあります。
それでも独占業務だと言い張る人は明確な根拠を示すべきです。
明確な根拠がなく、ただ都合の良い解釈だけで独占業務と主張するのは如何なものかと思います。

(追記 平成27年11月13日)

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