質問「病院の管理者は病院勤務日以外に他院で外来診療を行えますか?」

ご質問は某県の医療法人から頂きました。
ご相談者様の病院の管理者(院長)は常勤として週32時間の勤務をしていますが、勤務日以外の日(つまり管理者の休日)に、その先生の専門性を生かすため他院で外来診療を行おうとしたところ、保健所から「病院の管理者は、勤務日以外であって毎週定期的に他院で外来診療をおこなうのはダメ」と言われたそうです。
そこで保健所の指導根拠があるのかどうか質問されてきました。

結論を先に申し上げると、全く法的根拠はありません。
保健所がもし指導根拠を示すとすれば昭和29年に出された「管理者の常勤しない診療所の開設について」という恐ろしく古い通達を示してくると思います。
はっきり言ってこの古い通達以外に保健所の指導根拠はないと思います。
どうして言い切れるかと言うと、私も某保健所と数年前に同様の件でやり合ったからです。
最終的に某保健所は「地域医療への貢献という観点から常に○○市で診療して頂くことをお願いしている」と訳のわからない回答をしてきました。

では昭和29年の通達を示された場合、それに従う義務があるかどうかですが、私は無いと判断しています。
理由は下記のとおりです。
1.昭和29年の通達は非医師(エックス線技師)が開設する診療所の管理者についての疑義であり、管理者が不在の時は医師が1人もいないというケースであること。
2.昭和29年の通達を根拠として指導するのであれば、病院の管理者は365日ずっと病院に居なくてはならず、到底無理であること。
3.勤務時間以外の行動は個人の自由であり、それを縛ることは明らかに憲法(基本的人権、職業選択の自由等)に違反すること。

また、行政手続法という法律にも違反しています。

行政手続法(行政指導の一般原則)
第三十二条  行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。
2  行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。
(行政指導の方式)
第三十五条  行政指導に携わる者は、その相手方に対して、当該行政指導の趣旨及び内容並びに責任者を明確に示さなければならない。
2  行政指導が口頭でされた場合において、その相手方から前項に規定する事項を記載した書面の交付を求められたときは、当該行政指導に携わる者は、行政上特別の支障がない限り、これを交付しなければならない。

行政指導である以上、指導の根拠を明確に示さなければなりませんが、昭和29年の通達では無理がありすぎです。
ですから、昭和29年の通達を示してきた時は厚生労働省の判断を仰ぐという選択肢もあると思います。

ちょっと話がそれますが、トルストイの「戦争と平和」の中に下記のような文章があります。
『世界が存在し、人間がおたがいに殺し合うようになって以来、ほかでもないこの考えで自分を慰めながら、自分と同じ人間に対して犯罪を犯さなかった人間は一人もいなかった。
その考えというのは公共の福祉、つまり、頭のなかで考えられている他人の福祉だった。』

公務員も全く同じです。
上記文章を公務員向けに置き換えると『公務員が存在し、国民を管理するようになって以来、ほかでもないこの考えで自分を慰めながら、国民に対して犯罪を犯さなかった公務員は一人もいなかった。
その考えというのは公共の福祉、つまり、公務員が考えた省庁にとって都合の良い福祉だった。』となります。

ご質問者様の病院がある某県は医療法人が同族関係者等に支払う家賃についても間違った指導をしていると聞いています。
同族関係者等に支払う家賃は近隣相場並として指導するのが正しいですが、家賃は月額○○円以下でないと認めないと指導しているそうです。
指定してくる家賃が近隣相場よりかなり安い金額である上に、その金額の算定根拠は全くないそうです。
つまり、担当者が勝手に考えた金額ということです。
これが本当であれば管理者の休日に対する行動制限と同様に、公務員が考えた省庁にとって都合の良い福祉を押しつけている良い例と言えます。

(公開日 平成24年2月13日)