質問「管理者を変更すると新規個別指導があると聞きますが本当ですか?」

この質問は顧問先様から頂いたものですが、同じような相談を何回か頂いたことがあるので、ホームページに公開します。

医療法人が開設するクリニックの場合、管理者を変更することはたまにありますが、管理者を変更すると個別指導が来ると心配している医療法人の経営者は結構多いです。
個別指導は医療機関にとっては一番嫌なことなので心配する気持ちはとても解ります。

厚生労働省は個別指導に関する指導大綱を定めています。
指導大綱には都道府県個別指導の選定基準として次の7項目を定めています。
(1)支払基金、保険者等から情報提供があり、都道府県個別指導が必要と認められた保険医療機関等
(2)個別指導の結果が「再指導」又は「経過観察」であって、改善が認められない保険医療機関等
(3)監査の結果、戒告又は注意を受けた保険医療機関等
(4)集団的個別指導の結果、適正を欠くものが認められた保険医療機関等
(5)集団的個別指導を受けた保険医療機関等のうち、翌年度の実績においても、なお高点数保険医療機関等に該当するもの
(6)正当な理由がなく集団的個別指導を拒否した保険医療機関等
(7)その他特に都道府県個別指導が必要と認められる保険医療機関等

指導大綱の選定基準には新規個別指導の項目はありません。
新規指導に関する項目があるのは集団指導の選定基準で次のように書かれています。
「新規指定の保険医療機関等については、概ね1年以内にすべてを対象として実施する。」

個別指導は行政指導なので指導大綱に従って都道府県個別指導を実施しなければなりませんが、前述したように新規個別指導という概念は現在は存在しません。
あるのは新規指定時の集団指導だけです。
新規指定時なので、当然管理者の変更は新規集団指導の対象にはなりません。

しかし、実際には新規個別指導は行われています。
平成22年6月4日付の日本医師会の「指導の取扱いについて」という通知にも「新規指定保険医療機関等に対する個別指導」と書かれており、日本医師会が新規個別指導を容認していることが解ります。
また、新規個別指導は「新規指定より概ね6ヶ月を経過した保険医療機関等に対して行う個別指導」と書かれた資料もよくみかけます。
これらの新規個別指導は平成10年3月18日付保医発第36号「保険医療機関等に対する指導及び監査の取り扱いについて」という通達及び「医療指導監査室長内かん」を根拠にしていますが、同通知及び内かんは現在有効ではありません。
どうして有効でないと断言できるかと言うと厚生労働省の法令データベースサービスに掲載されていないからです。
法令データベースサービスは現在有効な資料のみ掲載されており、このデータベースに掲載されていない通達等は無効です。
したがって、地方厚生局は新規個別指導を実施する法的根拠は全くなく、はっきり言って行政手続法に反した違法な指導である可能性が高いです。
そして残念なのは医療機関を守るべき日本医師会が法的根拠のない新規個別指導を容認している点です。
法的には新規指定集団指導のみなので、日本医師会は新規個別指導の中止を要請すべきだと私は考えています。

ところで、今回の質問は管理者を変更すると新規個別指導があるかどうかですが、厚生労働省は新規個別指導について「同一の保険医療機関等であれば1回のみであるが、同一開設者が当該保険医療機関等を廃止した後、新たに医療機関を開設し保険医療機関等の管理者となった場合や同一開設者が当該開設者が当該保険医療機関等を廃止した後、他の者が新規に開設した保険医療機関等の管理者となった場合には新規個別指導を複数回受ける場合があり得る。」としているそうです。
したがって、医療法人が開設するクリニックの管理者を変更しただけでは新規個別指導又は個別指導の対象にはならないはずです。

ならないはずと曖昧な書き方にしたのには理由があります。
日本弁護士連合会が平成26年8月22日付けで厚生労働大臣及び各都道府県知事に提出した意見書にも書かれていますが、個別指導の手続は不透明であり、地方厚生局は個別指導の対象となった理由を明示しておらず、管理者変更だけで個別指導の対象となる可能性を否定できません。
地方厚生局が個別指導は行政手続きだということを理解して法的根拠のない個別指導を辞めることを願ってやみません。

(公開日 平成26年9月24日)