経営ヒント「診療所の管理者要件は「常勤」であり「専従」ではない」

平成18年11月に公開した『質問「管理者の常勤の意味について」』(https://nishioka-office.jp/kaitou44.html)に診療所の管理者の常勤性について詳しく書いていますが、いまだに診療所の管理者は診察時間中はずっといなければならないと指導している保健所があるらしく、当事務所に相談される方が後を絶ちません。
そこで、診療所の管理者要件について再度補足説明をします。平成18年11月に公開した内容と一部重複しますがご了承下さい。

保健所が、管理者は診察時間中ずっといなければならないと指導する根拠は「管理者の常勤しない診療所の開設について」(昭和29年10月19日付医収第四〇三号)という厚生省(当時)の通知(以下、昭和29年通知と書きます)です。
昭和29年通知には「病院又は診療所の管理者は、当該病院又は診療所における管理の法律上の責任者であるから、原則として診療時間中当該病院又は診療所に常勤すべきことは当然」と書かれています。
昭和29年通知以外に管理者の常勤性について書かれた法令はありません。
医療法第15条に「病院又は診療所の管理者は、その病院又は診療所に勤務する医師、歯科医師、薬剤師その他の従業者を監督し、その業務遂行に欠けるところのないよう必要な注意をしなければならない。」と定めていますが、医療法第15条は従業員に対する監督義務について書かれており、常勤でなければならないとは書かれていません。

昭和29年通知を根拠に指導するのであれば、当然病院の管理者も診察時間中ずっといなければなりませんが、病院は原則として365日診察しているのに365日ずっと出勤している管理者など実在しません。
そもそも勤務医に365日ずっと出勤させると明らかに労働基準法に違反します。
したがって病院の管理者に対して診察時間中ずっといなければならないと指導する保健所職員はいませんが、なぜか診療所に対してはずっといなければならないと指導する保健所職員は多くいます。
しかし、昭和29年通知には「常勤すべきことは当然」と書かれており、専従とは書かれていません。
専従と書かれているのであれば"専ら当該業務に従事する"必要があるので診察時間中ずっといなければならないという指導は妥当と思われますが、常勤は専従とは意味が異なります。
常勤は"病院又は診療所が定めた勤務時間(所定労働時間)の全てを勤務する者"のことであり、診察時間中ずっといなければならないという意味ではありません。
病院又は診療所が定めた勤務時間が診察時間と一致する診療所もありますが、最近は週5~7日診察する診療所が増えているので、診察時間より勤務時間の方が少ない診療所の方が多いと思われます。
医療法第25条第1項の規定に基づく立入検査要綱に「常勤医師等の取扱いについて」という別紙がありますが、そこには常勤医師の定義として「病院で定めた医師の1週間の勤務時間が、32時間未満の場合は、32時間以上勤務している医師を常勤医師とし、その他は非常勤医師として常勤換算する。」と書かれています。
つまり、勤務時間が1日8時間の場合には週4日以上出勤すれば常勤医師になります。

そもそも昭和29年通知はかなり前に出されたものであるうえに、昭和29年通知自体が非医師(具体的にはエックス線技師)が付近の病院の勤務医を管理者としてレントゲン診療所の開設許可を願い出たことに対する回答です。
医師又は歯科医師本人が開設・管理者となる事例ではありません。
さらに、常勤は専従であると解釈できる根拠など一切ないのに保健所が診察時間中はずっといるべきと考えているだけで指導されたのではたまりません。
行政手続法という法律がありますが、行政手続法には「当該権限を行使し得る根拠となる法令の条項」を相手方に示すと書かれており、自分達に都合のよい解釈だけで指導することを禁止しています。
保健所は診療所に対して法律の遵守を指導する立場にいる以上、まずは保健所が行政手続法を遵守すべきです。
「常勤医師の取扱いについて」という別紙は病院を対象にしていると主張した保健所職員がいましたが、昭和29年通知には「病院又は診療所の管理者は、以下略」と書かれており、病院の管理者は診察時間中ずっといなくても問題ないのに診療所の管理者は問題だと指導する保健所の根拠が全くないことは明白です。
自分達にとって都合の悪い通知は対象ではないと言い、自分達が根拠にしている通知は自分達に都合良く解釈しており、好き勝手という印象しかありません。

平成18年11月に公開した記事と今回の記事での説明で保健所の診療所の管理者の常勤性の指導と、私の診療所の管理者の常勤性の解釈の、どちらが根拠に基づいた適切なものかご理解頂けると思います。
週5日診察する診療所であっても週32時間以上の勤務時間がある常勤医師であれば管理者として不適格ではありませんし、保健所から電話があったときに管理者が不在であっても全く問題ありません。
さらに、診療所の診察日以外の日であっても管理者が他の医療機関に勤務してはならないと指導する保健所もありますが、これも全く根拠のない不適格な指導です。
このような指導をした保健所もさすがに根拠がないことは知っていたらしく、「あくまでお願いです」を繰り返すばかりでした。
保健所は「あくまでお願い」という半強制的な指導をよくやりますので、皆さまくれぐれもご注意下さい。

(公開日 平成28年8月18日)