経営ヒント「医療法人設立時の負債の引継ぎについて」

私は医療法人設立時に負債の引継ぎはしません。
医療法人に引き継げる負債は限られている上に、負債の引継ぎをすると添付書類が大幅に増えるからです。
そうでなくても医療法人設立の添付書類はかなりのボリュームになります。
添付書類が多ければ多いほど、チェックされる項目も多くなるので、審査に時間がかかります。
ですから私は設立時の添付書類は極力少なくすることをモットーにしています。

ところでこのような話をした時に、ある方から「私は行政の指導に準じて、認可を受けることにしている。」と言われました。
その方は特に何も気にせずに言われたのだと思いますが、このひと言で医療法人設立の手続に詳しくないということがわかります。

医療法人設立時の負債の引継ぎは「できる規定」です。「する規定」ではありません。
例えば東京都の医療法人設立の手引きには「拠出(寄附)財産の取得時に発生した負債は、医療法人に引き継ぐことができますが、借入日より後に支払いを行っている必要があります。なお、法人化前の運転資金に充てた負債は引き継ぐことができません。」と書かれています。
東京都側で負債を引き継げとはひと言も書いていません。
私は今まで東京都に医療法人設立認可申請を何回もしており、そり全てで負債の引継ぎはしていませんが、東京都から「負債を引き継げ」と指導されたことは一度もありません。

厚生労働省の「医療法人制度について」という通知にも「医療法人の設立に際して、現物拠出又は寄附すべき財産が医療法人に不可欠のものであるときは、その財産の取得又は拡充のために生じた負債は、当該医療法人の負債として取り扱って差し支えないこと。ただし、負債が財産の従前の所有者が当然負うべきもの又は医療法人の健全な管理運営に支障を来すおそれのあるものである場合には、医療法人の負債として認めることは適当ではないので、設立の認可に当たっては十分留意されたいこと。」と書かれており、負債は引き継げとは書かれていません。

つまり、負債は原則として引き継げないが、医療法人設立時に拠出した医療法人にとって不可欠な財産のために生じた負債についてのみ引継ぎことができるのです。
間違っても行政から負債の引継ぎを指導されることはありません。
このような基本的なことを理解しておらず、医療法人設立の手引きに書いてあることはすべて指導だと思い込み、手引きに書かれた通りに医療法人設立をしているようでは、クライアントであるドクターに有利に医療法人を設立することは絶対に無理です。
少しでも自分に有利な医療法人を設立したいと考えている方は、医療法人設立の依頼先をよく考えることをお勧めします。

ちなみに私は負債の引継ぎをする代わりに、個人開業時代の資産を医療法人に売却する方法を取っています。
たとえば内装設備や医療機器が簿価で3,000万円、負債は銀行借入が3,000万円というクリニックを医療法人化するのであれば、内装設備や医療機器を簿価の3,000万円で医療法人に売却する事業計画書を作成します。
医療法人は個人に対して代金を支払う必要がありますが、この代金は借入金の返済期間と同じ期間で分割返済とします。
たとえば借入金の残りの返済期間が4年であれば、4年間での分割払として事業計画書を作成します。
わざわざ負債を引き継がなくても個人の借入金を返済できることがご理解頂けると思います。
私の方法で医療法人設立時に添付書類として用意するのは、売買契約書(案)と固定資産台帳くらいです。
負債の引継ぎと比べると大幅に添付書類は減ります。
さらに銀行借入の名目が運転資金であるかどうかも問われません。
どちらが簡単、かつ、実務的な方法なのかは皆さまのご判断にお任せします。

(公開日 平成30年8月20日)