質問「医療法人の監事の責任と、医師免許との関係」

知り合いが新たに設立する医療法人の監事に就任して欲しいと頼まれていますが、監事は責任が重いと聞いたことがあります。
監事を就任したことでどのような責任を負う可能性があるのか、また、監事を引き受けたことで医業停止又は医師免許の取消の可能性はあるのか教えて欲しいというご質問を、医師から頂きました。

監事については、平成19年の第5次医療法改正により、医療法人の内部管理体制の強化や経営の透明性の確保の観点から、監事の職務の明確化・強化が図られました。
医療法人の監事の職務は医療法に定められています。

「医療法第46条の8」
一 医療法人の業務を監査すること。
二 医療法人の財産の状況を監査すること。
三 医療法人の業務又は財産の状況について、毎会計年度、監査報告書を作成し、当該会計年度終了後三月以内に社員総会又は評議員会及び理事会に提出すること。
四 第一号又は第二号の規定による監査の結果、医療法人の業務又は財産に関し不正の行為又は法令若しくは定款若しくは寄附行為に違反する重大な事実があることを発見したときは、これを都道府県知事、社員総会若しくは評議員会又は理事会に報告すること。
五 社団たる医療法人の監事にあつては、前号の規定による報告をするために必要があるときは、社員総会を招集すること。
六 財団たる医療法人の監事にあつては、第四号の規定による報告をするために必要があるときは、理事長に対して評議員会の招集を請求すること。
七 社団たる医療法人の監事にあつては、理事が社員総会に提出しようとする議案、書類その他厚生労働省令で定めるもの(次号において「議案等」という。)を調査すること。この場合において、法令若しくは定款に違反し、又は著しく不当な事項があると認めるときは、その調査の結果を社員総会に報告すること。
八 財団たる医療法人の監事にあつては、理事が評議員会に提出しようとする議案等を調査すること。この場合において、法令若しくは寄附行為に違反し、又は著しく不当な事項があると認めるときは、その調査の結果を評議員会に報告すること。

次に医療法人の監事の権限、義務、及び責任については医療法でそれぞれ下記のように定められています。

権限
「医療法第46条の8の3」(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第103条準用)
監事は、理事が監事設置一般社団法人の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって当該監事設置一般社団法人に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、当該理事に対し、当該行為をやめることを請求することができる。

義務
「医療法第46条の8の2」
監事は理事会に出席し、必要があると認めるときは、意見を述べなければならない。

責任
「医療法第47条」
社団たる医療法人の理事又は監事は、その任務を怠つたときは、当該医療法人に対し、これによつて生じた損害を賠償する責任を負う。
「医療法第48条」
医療法人の評議員又は理事若しくは監事(以下この項、次条及び第四十九条の三において「役員等」という。)がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があつたときは、当該役員等は、これによつて第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
2 次の各号に掲げる者が、当該各号に定める行為をしたときも、前項と同様とする。ただし、その者が当該行為をすることについて注意を怠らなかつたことを証明したときは、この限りでない。
一 理事 次に掲げる行為
 イ 第五十一条第一項の規定により作成すべきものに記載すべき重要な事項についての虚偽の記載
 ロ 虚偽の登記
 ハ 虚偽の公告
二 監事 監査報告に記載すべき重要な事項についての虚偽の記載

つまり、医療法人の監事が任務を怠ったとき、悪意又は重大な過失があったとき、監査報告に記載すべき重要な事項についての虚偽の記載があったときは損害賠償責任を負う可能性があります。
このように監事の責任(リスク)だけを説明すると誰も監事を引き受けないと思いますが、実際にはふつうに医療法人を運営している限り、監事が損害賠償責任を負うことはありません。
少なくとも当事務所の顧問先様の医療法人で監事が損害賠償責任を負ったことは今までに一度もありません。

医業停止又は医師免許取消については医師法に次のように定められています。

「医師法第7条」
医師が、第三条に該当するときは、厚生労働大臣は、その免許を取り消す。
2 医師が第四条各号のいずれかに該当し、又は医師としての品位を損するような行為のあったときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。
 一 戒告
 二 三年以内の医業の停止
 三 免許の取消し

医師法第3条と第4条の規定は下記の通りです。

「医師法第3条」
未成年者、成年被後見人又は被保佐人には、免許を与えない。

「医師法第4条」
次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えないことがある。
 一 心身の障害により医師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
 二 麻薬、大麻又はあへんの中毒者
 三 罰金以上の刑に処せられた者
 四 前号に該当する者を除くほか、医事に関し犯罪又は不正の行為のあつた者

監事の責任は前述したようにすべて損害賠償責任です。
医業停止又は医師免許取消は罰金以上の刑に処せられた者など限られているので、医療法人の監事を引き受けても医師免許には累が及びません。

なお、医療法第93条に「次の各号のいずれかに該当する場合においては、医療法人の理事、監事若しくは清算人又は地域医療連携推進法人の理事、監事若しくは清算人は、これを二十万円以下の過料に処する。」と定められており、監事にも罰金刑が科される可能性は否定できませんが、医療法第93条で定めているのは登記を怠ったときや、財産目録の備付けの怠りや虚偽記載、医療法54条の規定に違反して剰余金の配当をするなど、およそ監事の職務とは関係がないものと思われます。

(公開日 平成30年10月29日)