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質問「診療所の新規開業規制は本当にあるのですか?」

医師が、大手転職サイトの医師転職部門の者から「都心部の医師過剰対策から2020年4月から都内では譲渡を含めた新規開業が極めてしづらくなる。法案も既に通っている」と言われ、心配になり当事務所に相談してきましたが、大手転職サイトの者が言っていることは間違いです。

現時点で決まっていることは平成30年7月25日に公布された「医療法及び医師法の一部を改正する法律」で順次施行すると決められたものだけです。
この改正法の趣旨は「地域間の医師偏在の解消等を通じ、地域における医療提供体制を確保するため、都道府県の医療計画における医師の確保に関する事項の策定、臨床研修病院の指定権限及び研修医定員の決定権限の都道府県への移譲等の措置を講ずること。」です。(アンダーラインは当事務所)

改正法のうちアンダーラインに該当する主な内容は下記の通りです。
1 医療法の一部改正
(1)医師少数区域等における医療の提供に関する知見を有するために必要な経験を有する医師の認定に関する事項
(2)都道府県における医師確保対策の実施体制の整備に関する事項
(3)地域の外来医療機能の偏在・不足等への対応に関する事項
(4)地域医療構想に係る都道府県知事の権限の追加に関する事項

(1)の医師少数区域等に関する件は開業規制とは全く無関係です。
(2)は都道府県の医療計画等の策定の見直しに関する事項です。
(3)は都道府県は二次医療圏その他の都道府県知事が適当と認める区域ごとに、協議の場を設けるとしており、下記の4つについて協議を行い、その結果を取りまとめて公表することになっています。
1.2次医療圏において確保すべき医師の数の目標を踏まえた外来医療に係る医療提供体制の状況
2.病院及び診療所の機能の分化及び連携の推進に関する事項
3.複数の医師が連携して行う診療の推進に関する事項
4.医療提供施設の建物、設備、器械及び器具の効率的な活用に関する事項
つまり、外来医療機能に関する情報の可視化について協議し、その結果を取りまとめて公表するのであり、新規開業は協議の対象ではありません。

(4)は病院(有床診療所を含む)の開設又は病院の病床数の増加に関する権限の追加です。無床診療所は対象外です。

このように平成30年7月25日の改正法では診療所の新規開業規制については触れられていません。
したがって新規開業規制に関する法案が通っているどころか国会に提出されたこともありません。
診療所の新規開業規制の話が出てきたのは平成30年12月26日に行われた「医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会」です。
この分科会での主な指摘事項は下記のとおりです。

・地域ごとの疾病の構造や患者の受療行動といった特性など、より詳細な付加情報等を加えたり、患者のプライバシーや経営情報等の機微に触れる情報を除いたりといった対応のために、可視化する情報の内容について地域の医療関係者等と事前に協議等を行うこととすべきである。
・外来医療機関間での機能分化・連携の方針等についても、併せて協議を行い、地域ごとに方針決定できるようにするべきである。
【対応(案)】
・新規開業者に対し、届け出様式を入手する機会を捉え、外来医師多数区域であることと、医療計画に定めてある方針を提供し、新規開設者の届出様式に、地域で定める不足医療機能を担うことを合意する旨を記載する欄を設け、協議の場で確認できるようにすることとしてはどうか。
・合意欄への記載が無いなど、新規開設者等が地域の外来医療提供方針に従わない場合には、臨時の協議の場への出席要請を行うこととしてはどうか。

※すべて「医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会」資料より抜粋
ただし、アンダーラインは当事務所

そもそもが検討会の資料であるうえに、すべて案であることがご理解頂けると思います。

上記の【対応(案)】は平成31年3月22日の第4次中間取りまとめ(案)でも同様の記載があります。
このことから【対応(案)】は2020年4月から実施される可能性が高いと言えますが、平成30年7月25日に公布された改正法は「無床診療所の都市部集中に伴う外来医療機能の偏在に対しては、地域ごとの外来医療機能に関する適切なデータを可視化し、開業に当たっての有益な情報として提 供することで、個々の医師の行動変容を促し、偏在是正につなげていくことを基本的な考え方」としており、可視化と情報提供が基本です。
したがって、もし【対応(案)】が実施されても強制力はなく、あくまで自主的な取り組みを促すものと考えられます。
その証拠に第4次中間取りまとめ(案)には「将来に向けた検討事項」として「地域の外来医療機能の確保に当たっては、第2次中間取りまとめにおいても整理したとおり、今回の外来医師偏在指標の可視化等による新規開業者の行動変容への影響について、施行後速やかに、かつ定期的に検証を行ったうえで、十分な効果が生じていない場合には、無床診療所の開設に対する新たな制度上の仕組みについて、法制的・施策的な課題の整理を進めながら、検討を加えていくべきである。」と書かれています。(アンダーラインは当事務所)

以上説明したとおり、大手転職サイトの者の「都心部の医師過剰対策から2020年4月から都内では譲渡を含めた新規開業が極めてしづらくなる。」という話は間違いです。
さらに新規開業を煽っている業者もいるらしいという話も耳にします。
くれぐれも対応案としての話をあたかも法案が通っているように話したり、過剰に新規開業を煽るような業者の言うことは絶対に信じないで下さい。

(公開日 平成31年3月28日)

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